秘密の地図を描こう
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やはり、自分に向けられるまなざしは厳しいな。ラウは心の中で呟く。しかし、キラにそれが向けられないのであればいい。そう考えていた。
「キラ、お前……」
カガリが何かを告げようとしている。
「カガリがどうしたいか。それを確認しようと思って」
それから、自分がどうするべきか考えるから。キラはそう言って微笑んでいる。
「そのために、カナードさんに連れてきてもらったんだ」
彼はそう続けた。
「それは?」
待っていたかのようにバルトフェルドが問いかけてくる。
「ラウさんは、とりあえず僕の監視? 無理をしないように見張っててくれるんですけど」
プラントにいたときからずっと、とキラは言い返す。
「……だめですか?」
自分はラウがいてくれるといろいろとやりやすいのだが、と彼は聞き返している。そう言ってくれるのは嬉しいが、相手を刺激しなければいいが……とラウは心の中だけで付け加えた。
「それに……気になることもあるので、確認につきあってもらいたいんです」
彼に、とキラは続ける。それが何を指しているのか、当然、わかっていた。
「俺たちじゃだめなのか?」
だが、バルトフェルドは納得できないらしい。そう問いかけてくる。
「上手く説明できないのですが……それがわかるのは、僕とラウさんと、今はミネルバにいるレイだけなので……」
もっとも、とキラは続けた。
「それについてはっきりと確証が持てたら協力をしてください」
それまでは、と口にしながらさりげなくキラは視線をバルトフェルドから移動させる。それだけで彼には何を言いたいのかわかったようだ。
「仕方がないな。とりあえず、それに関してはお前がきちんと責任を持て」
邪魔をするようなら、遠慮なく排除するぞ……というのが彼なりの妥協点なのだろうか。
「はい」
にっこりと微笑むとキラはうなずく。
「というところで、カガリ?」
どうするの? とキラは視線をまた彼女へと移動させた。
「……言っていいのか?」
自分の希望を、と彼女は逆に聞き返してくる。
「それを聞くために帰ってきたんだけど……」
キラはそう言って首をかしげた。
「それとも、迷惑だった?」
さらにこう問いかけている。
「そんなはず、ないだろう!」
当然、と彼女は叫ぶように言った。
「ただ、お前の体が心配なだけだ」
「だから、私が付いてきたのだよ」
キラに無理をさせないために、とラウは口を開く。
「いざとなれば、ザフトにもプラント本国にも連絡を取れるしね」
堂々と、と続ける。
「それよりも、君が何も言わない方がキラの負担になると思うよ?」
この言葉にカガリが驚いたようにキラの顔をのぞき込む。そうすれば彼が苦笑を浮かべたのがわかった。
「なるほど。確かに役に立ちそうだ」
ラウの言葉に感心したようにバルトフェルドがうなずいている。
「バルトフェルド隊長。キラ君が信頼しているようですから、悪い人ではないのではありませんか?」
「ラミアス艦長のおっしゃる通りです。多少問題点はあったようですけど、キラが矯正したようですし」
アスランよりもよっぽどマシではないか。ラクスのこの言葉に苦笑を浮かべるしかできない。
「……俺としては、どうしてもあの頃の印象が捨てきれないんだよ」
かなりマシになっていることは否定しないが、と彼は続けた。
「ともかく、カガリ。キラの質問に答えてやれ」
それが自分達の行動を左右するだろう。そうバルトフェルドは言う。
「そうだね。これからどうするかを決めるにしても、希望を聞かないと判断もできないよ?」
キラはそう言って微笑む。
「私は……」
それに促されたのだろうか。カガリがゆっくりと口を開く。
「オーブの参戦を止めたい。例え、それが不可能だったとしても、だ」
それでも、と彼女は言う。
「……わかったよ、カガリ。君がそうしたいなら、僕は手伝う」
現在のカガリがオーブにどれだけ影響を及ぼせるか。それはわからない。それでも、彼女の言葉に耳を貸してくれるものはいるのではないか。
キラはそれにかけたいのだろう。
「ラミアス艦長?」
「わかっています。アークエンジェル、発進ですね」
二人の言葉を合図にクルー達が動き出す。その様子を、キラは懐かしそうな表情で見つめていた。